逃げる女


 皆さんは、こーいう経験ありますかね?
 あ、男性限定ですよ、男性限定。
 夜、仕事からの帰り道、駅から出て帰路につくわけですよ。
 で、たまたま薄暗くて人通りの少ない道を通ったりなんかしなくてはならない。
 その時に、偶然前に女の人が歩いていて。
 いや、まさにそういう状況なんですけどね、今。
 あ、申し遅れました。私、来生良といいまして、サラリーマンやってます。
 年齢は、とうとう30才になってしまいましたよ。ああ、さらば、うるわしの20代。
 あ、話が逸れましたねぇ。で、こう、カツコツと革靴鳴らして歩くわけですよ。まあ、皮靴なんで音は必然的に出てしまうわけですよ。しょうがないですよ、靴底がゴムじゃないんだから。
 まあ、今は自分の足音聞こえてないんですけどね、イヤホンでDDRのサントラ聴いてますから。いやあ、DDRはサラリーマンの運動不足解消には持ってこいですね。
 あ、また話が逸れましたね。
 それでまあ、こっちとしては全然前を歩く女性なんて意識もしてないわけですよ。それなのに、前を歩く女性がチラッとこっちを振り返って、小走りに逃げていく・・・
 ほら、そう、あれあれ。今まさに前を歩く女性が走っていきますよ。
 そう、あなたも経験あるでしょう?
 あれ、むかつきますよね。
 何? 私が貴方を襲うとでも思ってるんですか?
 そう言ってあげたいですよ、自意識過剰も甚だしいっていうか。襲うならもっと美人を襲いますよ、っていうか。いやいやいや、襲いませんよ。サラリーマンでそんなことして、せっかくここまで築いてきた人生を崩しますかってんですよ。
 あれは侮辱ですね、全く、失礼にも程がありますよ。
 あと、階段のぼる時にスカート押さえて上がる女の子ね。だったら、最初っから短いスカートはかなければいいのに。あれも、下の人に対して「どうせ覗くんでしょ」と言ってるのと同じですね、ええ、全くムカツキますとも。
 今、前を走っていく女性にも言ってやりたいですね、お前なんか襲うかって。

 あれ?
 今、電灯のある電柱を横切ったんですけど、何か影が覆い被さってきたような・・・
 下を見ると、自分の影を覆い隠すぐらいの大柄な男の影が・・・何か構えてる?
 振り返ると、アイスホッケーのキーパーマスクで顔を隠し、チェイン・ソーを構えたジェイ○ンが私を見下ろしていた。
 そうか、彼女は私ではなく、こいつを見て逃げ出したのか・・・
 私は、最後にみなさまに進言したい。
 前を歩く女性が走り出したら、自分も後ろを振り返りなさい、と。


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