あーあ、女子高生なんてさー、世間では何て言われてるか知らないけど、蟻みたいなもんよねー。
夏休みの登校日。
蝉の煩い中、澄は机に突っ伏した。
クーラーのついてない教室は非常に暑い。机のひんやりした感触を左頬で楽しみながら、澄はぐてーっとのびている。
まーーったく、弟が観察してる蟻そのものよ・・・
何が楽しくて、夏休みだってのに学校になんかこなくちゃならないってのよー。
世間では、女子高生というのは渋谷なんかに繰り出して好き勝手やってるように映るかもしれない。
しかし、そんなに好き勝手に生きているわけではない。
常に周囲に気を配り、異端にならないように注意して、成績だって悪くていいって開き直ることもできないし、家に帰れば親の小言が待ってるし、世間では乱れてるって言われてるカッコだって、やらないと周りから浮いちゃうから、やらざるを得ないわけで。
これで、トモダチっていうか、クラスメートにも気を使うのよね。
何か見つけて、いいなって思っても、自分ひとりでやるわけにはいかないしさー。
みんなでイッショにやらないと、浮いちゃうものね・・・
「こら、赤城さん、HRだからって気を抜かない」
「はーい、先生」
澄は顔を上げると、ちゃんと座りなおす。澄は隣のクラスメートと目が合うと、ぺろっと舌を出して見せる。
せめて共学ならねぇ。好きな男子とかクラスにいてさー。
そしたら、夏休みの登校日だって、ちょっとは張り合いが出るってモノよ。
ホント、女ばっかで、全くもって蟻みたい。
澄はげんなりした気分になる。
先生は夏休みに気を抜いて、事件に巻き込まれたりなんなりしないようにとのお小言の続行中だ。
そしたら、差し詰め、先生なんかは女王蟻ってとこかー。
下半身おっきぃしぃ、まんまって感じよね。
一人でうんうんと頷く。
そういえば、先生は未亡人だ。結婚してしばらくして、夫を亡くしているという。
そんなとこまで蟻みたい、と澄は不謹慎な感想を抱く。
ん? 何の音かしら・・・?
ゴゴゴゴゴ、と上の階から振動とともに音が伝わってくる。
それと、悲鳴のような声。
先生も話をやめ、怪訝そうな顔である。
次の瞬間、大量の水が教室に流れこんできた。澄も先生もクラスメートも、水に流されていき、開いている窓から外へと流されていく。
その頃。
澄の自宅では、弟の良くんが観察に飽きた蟻の巣に、じょうろで水を流し込んでいるところだった。