戯れ言3


 仙台市、青葉城址公園に二人の人影があった。
 一人は丸刈り頭に眼鏡、詰め襟ガクランの青年。
 そしてもう一人は、耳のあたりに突起物を生やした謎の親父である。
 上半身だけ武士のカッコをし、右目には牛乳瓶の蓋のアイパッチをしている。
 そして、腰にはおもちゃの刀の日本差しであった。
「ぐふふ、仙台のナオンは伊達正宗にメロメロじゃぜ?」
「何だか、すでにものすごく後悔しているのだが」
 呟く青年の声はオヤジの耳には入っていない。
「そして、伊達政宗気取りの小粋な武士に、仙台のナオンはメロメロ。これでわしもモテモテじゃぜ? 幼少の頃より仙台のナオンは伊達政宗のカッコよさにふれておるのじゃからな?」
「・・・・・まあ、そういうこともあるかもしれないな・・・」
 青年は、一縷の望みでも見出すかのように呟くと、意気揚々と歩いていく親父の後をついて歩いていった。
「ぐふふふふ。ナオンは眼帯のツバの紋篭にて一撃必殺。これで仙台ナオンは一網打尽なのじゃよーー」

 〜 ファーザー伊達政宗の唄 〜

 人生苦もありゃ苦もあるさ。
 ナオンの視線を一人占め。
 悔しがる男のやっかみは、この眼帯で黙らせる。
 「ひかえおろう、この紋篭(モンロー)が目に入らぬか」
 ははぁと平伏小市民。
 ナオンは伊達がいただいた。
 これにて事件は大団円。

「紋篭ってなんだ?」
 ナオンスキーの問いに親父(ファーザー)は答える。
「この眼帯じゃよ? これを見せれば皆の衆が平伏するのじゃぜ?」
「紋所と印篭が混ざったのか?」
 すでに、事の顛末が読めてきたナオンスキーはファーザーから一歩離れて後をついていった。
「それに、印篭も紋所も水戸黄門じゃないか・・・」

「仙台のナオンを発見じゃよ?」
 可哀相に、仙台城址公園に現れた女性が、ファーザーの目に止まってしまった。
「そこのナオン、わしを誰じゃと思う? 伊達正宗とイッショに諸国を漫遊し、モンローの権威で悪者を平伏させないか?」
「???」
 当然のように頭の上に?マークを並べる女性。
「この眼帯の煌く時、お主のハートはわしに釘付けじゃぜ?」
 相手の困惑に気付くことなく、ファーザーの台詞は続く。
「うっかりするのや、角や助など放っておいて、二人で愛の漫遊としゃれこみ、いく先々で事件を解決、呵呵大笑・・・・」
 ファーザーの繰り言は続く。ファーザーが自分の言葉に夢中になっている間に、女性はキの人を見る目でファーザーから逃げていった。そして、ナオンスキーもまた、呆れてその場を去っていった。
「・・・・悪者を平伏させ、大団円。そして、お主とわしで国家繁栄を愛し合うのじゃぜ?」
 ファーザーの繰り言が一応の結論を見せた時、ファーザーの前にはコワモテの男が立っていた(お約束)
「をぅ、俺と何を愛し合うんだ?」
「や・・・・」
 今更ながらに辺りを見回すファーザー。しかし、その場にはヤクザな人と自分しかいないのであった。
「わ、わしは伊達政宗じゃぜ? こ、このモンローが目に入らぬか」
 右目にあてていた眼帯(牛乳キャップ)を高々とかざすファーザー。しかし、男は意にも介さなかった。
「そりゃあ、水戸黄門だろうが。おめぇ、俺を馬鹿にしてんのか? ほう、刀持ってんじゃねぇか。俺も仙台の男だ。お前が伊達政宗に憧れてるのに免じて、武士の情だ。切腹で許してやろう。介錯はしてやる」
 スーツの合わせからちらりと覗くドス。
「わしはただいま、情け無用の残虐ファイトを展開中じゃぜ? お主は見なかったことにして去っていくのが懸命じゃよーー」
「そうか、情け無用か・・・」
 にやりと笑う男。
 そして、絶叫が青葉城址公園にこだまし、後にはずたぼろになったファーザーだけが取り残された。

おそまつ


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