花見に行こうよ


 ボクが澄と暮らし始めて、もうどれぐらいになるだろう。
 付合い当初のときめきはすでになく、熱病のような恋は去っていった。
 まったりと、ゆったりと、二人の時間は流れていき、愛し合うよりもささいな喧嘩が多くなった。
 この先どうなるのかな、一緒にいたいけど、その理由ってなんだろう。

 ねえ、花見に行こうよ。
 天気もいいし、桜も満開。きっと楽しいよ、気分も晴れるよ。
 二人で、お互いだけを見て、悪いところばっかが目に付いて、要求と反発の日々だけじゃ、一緒にいられないよ。

 叩けば誰でも音が出るカスタネットみたいに、ボクがやることなすこと全部に、君は文句を言うね。ボクのことそんなに気に入らないの?
 それとも、ボクと一緒にいたいから、君はそんなに文句を言うの?
 叩かれてばかりじゃ、ボクも辛いんだよ。カスタネットだって、たまには思うはずさ。叩かれても音を出したくないって。

 ねえ、花見に行こうよ。
 天気もいいし、桜も満開。きっと楽しいよ、気分も晴れるよ。
 下を向いて暮らしてないで、たまには上を見上げようよ。きっと、毎日を楽しくくらせるようになるって。
 そうしたらまた、君の気に入るボクになるから。

 穴の空いたソックスからはみでる親指みたいに、君の理想からボクははみだしているのかな。
 どうして口やかましい君と、ボクは一緒にいるんだろう。
 愛されてるから?
 ううん、きっとボクが君を愛しているから。
 ボロクソに言わた時、いつも思うよ。ボクはどうしてこの人と一緒にいるのかって。
 でも、ボクは君を愛してるんだね。一緒にいたいよ。
 だから、君の理想に近づきたいよ。でも、ボクにはボクの理想がある。それが君の理想と合わなくても。でも、やりたくないことはしたくないんだ。

 ねえ、花見に行こうよ。
 天気もいいし、桜も満開。きっと楽しいよ、気分も晴れるよ。
 一緒に桜を見て、笑いあおうよ。
 ボクが一緒に桜を見たいのは君なんだから。
 だから、お願い。
 花見に行こうよ。
 そして一緒に、笑って暮らそう。


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