お遊戯


 年明け、ボクは悩みを抱えつつ、お正月番組を見ていた。
 ばか騒ぎする芸能人達を眺めつつ、ボクはわかないアイディアを持て余し、ため息をついてなぞいたのだ。
 ボクを悩ませているのは、来春の入園式で行われる催し物についてだ。
 あ、申し遅れましたが、ボクは来生良。職業は、まあ察しがついたとは思うけど、保育士。ちょっと前の言い方では保父さんってことになる。
 うちの保育園では、毎年入園式に保育士で催し物をやることになっている。
 まあ、これがちょっとした評判で、毎年これを楽しみにしている人もいるってぐらい。そして、毎年催し物は変えているのだ。
 当然子供受けしなくちゃいけないのは第一。
 そして、そこに他にはない独創性とか、そういうのが要求されるわけ。
 毎年リーダーは持ち回りなんだけど、今年はボクにお鉢が回ってきたのだ。
 そして、リーダーは催し物の案を出さなくてはならない。そのリーダーが持ってきた案を元に、みんなで色々考えて、傑作に仕上げる、そういうわけだった。

 ボクは今年で勤め始めて3年目になる。うちの保育園は保父さんはボクだけ。つまり、黒一点(そんな言葉はない?)ってわけ。
 ボクが保父さんになった理由は簡単。
 子供好きとか、そういうこともあるけど、ただ純粋に保母さんが好きだったから。
 まあ、かなり不純だけど、保母さんと知り合う機会なんて滅多にないでしょ? ボクは子供好きな女の子が大好きだったりするわけだ。
 保母さんと知り合うには、保父さんになるのが手っ取り早い、ってわけ。
 まあ、そんなこんなで、ボクにもようやく二人でゴハンを食べに行くぐらいの仲のコはできたわけで、今回はいいところを見せたいなんて思いもある。
 だから、色々考えてるんだけど、頭に浮かぶのはありがちで大したことないモノばっかり。ちょっと独創性って言葉とは無縁なんだな。

 えーっと、経緯の説明はそんなとこ。
 正月はボクは実家に帰らずに一人で過ごしたけど、澄ちゃん(えーっと、その例のコね)も遊びに来てくれたりなんかして、淋しい思いもせずに過ごしてきた・・・んだけど。そろそろ三が日も終わろうとすると、わいてこないアイディアというものを何とかしなくちゃイケナイわけだ。
 澄ちゃんも「大丈夫?」なんて心配してくれて、「いっしょに考えようか」とか言ってくれたんだけど、やっぱりいいトコ見せたいから、「大丈夫、楽しみにしてて」なんて安請け合いしちゃったわけだ。
 ぜーんぜん大丈夫じゃないのにね〜。どーしよ・・・

 テレビでは、怪しいインド風の衣装に身をつつんだおっちゃんが、ぴーひょろろと笛を吹いたりしている。
 そっか、今年は巳年か。12年に1回の稼ぎ時なんだねぇ。「レッドスネィクカモン」なんて言って壷を叩いてたりする。
 なんか古臭いんだけど、安心できる面白さがあって、おっちゃんの喋りが絶妙でつい笑いを誘われる。お約束ってのに日本人は弱いしね。
 なーーんて見てたら、ピキーンと脳に閃くモノがあった。頭に電球をつないでいたら光ったに違いないって感じだ。
 ボクはタンスに走るとソックスを引っ張りだす。で、腕を突っ込んでヘビのように口をバクバクさせる。うん、ソックスでも十分だ。
 何をやるかって? そりゃ、東京コミックショーをそのままパクるわけじゃない。そんなことして、オトナには受けるかもしれないけど、子供はぽかーんとしてるだろう。まあ、ヘビが顔をだすとこでは喜ぶかもしれないけどね。
 ボクは、その他にもボール紙やら毛糸やらをかき集めて、ソックスに豪勢に飾り付けてやる。うん、プロトタイプはこんなもんだろ。
 最後に重要なのが、これだ。カスタネット。
 カスタネットをソックスのヘビの口の部分にはっつける。これで、ヘビが口を閉じる度に、タン、タンと音がするわけ。これ、受けると思わない?
 ま、これに後は演出だな。ま、それはボクだけで決める部分じゃないし。
 みんなの反応、特に澄ちゃんの反応が楽しみでしょうがない。

 入園式。
 天気にも恵まれて快晴となったその日は、園庭の桜も綺麗な桃色を主張している。
 そして、お遊戯室では、ボクの案をみんなで煮詰めに煮詰めた催し物をやっている真っ最中だ。
 最初にみんなにアイディアを披露して、プロトタイプのヘビを見せた時、みんなの反応は概ね好意的だった。だけど、みんなでアイディアを出すうちに、みんなはボクのアイディアをホントに気に入ってくれたみたいだ。なぜなら、みんながいろんなアイディアを出す余地がタクサンあったからだ。
 今は、ボール紙の目をつけて、モールで身を飾ったセサミストリートにでも出てきそうなヘビたちが、澄ちゃんの読むセリフに合わせてタン、タンと音をならしている。
 この後にはボクの出番もある。ちょっと待っててね。

 ボクの出番も終わって、最後はヘビたち総出で合唱(ていっても、タン、タンと音を鳴らすだけ)になった。
 曲は春にちなんでサクラだ。さ〜く〜ら〜、さ〜く〜ら〜♪ってヤツ。
 保育士全員が台の影に隠れて、手を上に突き出して、曲に合わせて
 タン、タン、タン♪
 タタタン、タン♪
 ってやってる図は、後ろから見るとさぞ間抜けだろうと思う。
 でも、見てる人たちには受けてるみたい。ボクも一生懸命曲に合わせていたら、隣に並んでる澄ちゃんが小声で聞いてきた。
「ねね、どーして良くんのは、そんなにシンプルな赤いヘビなの?」
 ホントのことが言えずに、ボクは曖昧に笑って誤魔化した。
 まさか、ねぇ? モトネタに敬意を表して、とは言えないでしょ?
「れっどすねぃく、かもんっ」

終わり


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